ホーム / 日医工ジャーナルダイジェスト

日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.46 No.411 2020.2-3 ダイジェスト

医療における「5G」の可能性とは
~NTTドコモが進める通信からの医療改革~

中村 寛氏
株式会社NTTドコモ 取締役常務執行役員(CTO)
R&Dイノベーション本部長/博士(国際情報通信学)

―5Gについて基本的なことを解説していただけますか。
 5Gとは「5th generation」つまり「第5世代移動通信システム」のことです。1979年12月、世界初のセルラー方式による移動通信システムが当時の電電公社によりサービス開始されました。これが1G=第1世代です。セルラー方式とは区画ごとにエリアを分割し、そこに基地局を配置する無線通信方式です。アナログによる1Gは、自動車電話としてスタートし、企業経営者などの一部の方が使用するような特別な通信手段でした。
 1990年代に入ると2G=第2世代としてデジタル方式へと移行します。携帯電話の大きさもポケットサイズとなり、営業マンの使用によって市場は一挙に拡大していきました。1G~2G(1980年代~1990年代)の20年間は、家やオフィスに固定された電話を、どこでも誰でも使えるビジネスツールとして発展させた通信基盤の変革の時代と言えるでしょう。
 そして、2000年頃からが3G=第3世代です。それまで主にビジネス関係で使われてきた移動通信手段を、日常生活の中で1人ひとりが持つ時代になり、i-modeなどによりモバイルマルチメディアも発展しました。そして、2010年代はLTE方式により、さらなる高速大容量を実現し、スマートフォンも登場します。これが現在の4G=第4世代です。3Gから4Gの20年間は携帯電話が「ケータイ」に、さらには「スマートフォン」へと、情報端末として大きく変化した時代で、移動通信サービスが生活基盤に根付いた時代でした。

新興国で開発された医療機器が先進国に逆輸入
リバース・イノベーションの実態と将来を探る

中島 清一氏
大阪大学大学院医学系研究科
次世代内視鏡治療学・消化器外科学

―リバース・イノベーションについて解説していただけますか。
 従来、世の中を変えてしまうようなイノベーションは文明、文化の進んだ先進国で起きてきたと考えられてきました。しかし、現在ではイノベーションの一部が新興国に起こり、逆に先進国に流れるようになりました。こうしたことをリバース・イノベーションと呼んでいます。
 一方で、リバース・イノベーションという概念も最近では若干時代遅れになりつつあります。この考え方は「先進国と新興国」、「豊かな国とそうでない国」といった具合に大きく2つに分けていることが前提です。ところが、地球規模で見てみると世界各国の経済格差は明らかに縮まりつつあり、極端な貧困層も減少しています。
 それぞれの国の中での格差はあると思いますが、統計学的に見ると極端に貧しい国はなくなりました。リバース・イノベーションという言葉は「貧しい地域から豊かな地域に逆流する」というイメージがあるので、今ではマルチポイント・イノベーションという言い方の方がふさわしいと考えられるようになってきました。そもそも先進国と新興国を分ける境目が曖昧になってきているので、世界中のどこでもイノベーションは起こり得る状況です。そして、そのイノベーションは、すぐにあちこちに伝播します。
―互いに影響しあうというイメージですか。
 A地点で起こったものが逆流してB地点に行く、もしくはC地点に下がっていくといったように、1つの地点で起こったものが、他の地点に同時多発的に影響を与えます。スマホのアプリがいい例でしょう。先進国だけでなく新興国でも開発可能ですし、全世界に向かって売り出すことができる。医療機器のイノベーションもそうした段階に来ています。日本は先進国である自分達と新興国を分けて考えがちですが、今や医療は先進国と新興国を分けて考える時代ではありません。だからこそ、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)という言葉が出てくるわけです。

令和2年診療報酬改定から見えてくるもの
遠隔医療、オンライン診療は医療効率化の有効的手段

昌子 久仁子氏
公立大学法人 神奈川県立保健福祉大学
ヘルスイノベーションスクール 教授

―今回の診療報酬改定についてはどのように思われましたか。
 必要なところに積極的に取り組んでいこうという姿勢が表れており、基本的に行政はよくやったという印象です。医療機器業界で活動されている方々からはいろいろとご意見があると思いますが、目配りが効いた内容だったのではないでしょうか。
 ただ、医薬品、医療材料で改定ごとに大きく価格が下がるというこれまでのやり方は、今後どの程度続くのかなと思います。そろそろ、イノベーション評価は本来どうあるべきなのかを考えなければならないタイミングと思います。これは従前から言われていますが、医薬品業界も医療機器業界も新しいものへのチャレンジに見合う償還価格設定が難しくなってきており、その結果疲弊してきているように思えます。現在のやり方が続く限り、ますますその傾向が強くなるでしょう。また、イノベーションの評価は開発税制などで手当てをする方法もあるかもしれません。
 診療報酬改定で「医師の働き方改革」に着手したことは良かったと個人的には思っています。医師の働き方改革で救急医療に診療報酬点数が付きましたが、若い医師や女性医師が増える中で彼らのライフイベントを考えると、本当に必要なことについてはまだ解答が見いだせていない道半ばにあると言えるでしょう。
 本当に必要な医師数とはどれ位なのか。例えば、急性期医療や外科手術など人手がかかる領域に対する必要人数を想定し、そこに向けてリソースが配分できるような診療報酬に導いていくことが求められると思います。診療報酬点数が医療の方向性を決定しますから、こうした考え方は重要です。

コンプライアンスは自らできるところからという発想で
~コンプライアンスの本質を知り、自分で判断する能力を養う~

三村 まり子氏
西村あさひ法律事務所 弁護士

―日本人がプロセス管理の重要性を強く意識するにはどうしたらいいでしょうか。
 良きにつけ悪しきにつけ、日本はグローバルからアイソレート(分離、孤立)してしまって、グローバルスタンダードがプロセス管理に移ってきたことを理解していない、腑に落ちていないのだと思います。例えば、日本では何か悪いことがあると証拠を隠す、捨てるといった行為に走ります。グローバルスタンダードから見るとどのような事態になっても証拠はあった方がいい。証拠があれば「この程度のルール違反で済んだ」となりますが、証拠がなければその“悪事”は限りなく大きく見えてしまいます。
 私が講演を行った時に、「証拠は捨てないように」、「証拠はあればあるほどよい」と強調したら、講演後、「証拠を捨てないようにというアドバイスは、法務に隠して捨てろということを暗におっしゃっているのでしょうか」という質問をした人がいました。これには驚きました。講演を聞かれた方の中に、同じような解釈をした方がいるかもしれないと思うとショックでした。
―しかし、グローバルスタンダードのルール作りはグローバル展開している規模の大きな企業では可能ですが、中小が多い医療機器メーカーでは難しいのではないでしょうか。
 非常に厳しいルールであっても、どうしても守らなければいけないと考えるのが日本人です。欧米の人間の発想は、「ルールとはより良い“ゲーム”をするために存在する」であり、ルールによってビジネスがしづらくなるのなら「ルール自体を変えればいい」と考えます。