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日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.49 No.422 2022.10-2023.1 ダイジェスト

インフルエンザ診断補助を行うAI医療機器「nodoca」(前編)
公的保険に新機能・新技術として日本初の事例に

沖山 翔 氏
アイリス株式会社 代表取締役/医師
福田 敦史 氏
アイリス株式会社 取締役/CTO
安見 卓志 氏
アイリス株式会社 ハードウェア部門長

−−−最初に、なぜAI医療機器の対象疾患としてインフルエンザを選ばれたのか、理由を聞かせていただけますか。

【沖山】新型コロナウイルスの蔓延以前からインフルエンザは患者数が多く、医療現場の疲弊が問題になっていました。また、患者さんは病院側に「なぜ診断証明書を出してくれないのか」、「なぜ検査が陰性なのに抗インフルエンザ薬の処方がされるのか」、「なぜ翌日もまた受診して再検査が必要なのか」など様々な疑問を訴え、納得感が得られにくい疾患でもありました。直接の原因となっているのは、患者さんと医師との間にある疾患、治療に対する情報ギャップです。そこに医療現場の忙しさが追い討ちをかけて、さらにギャップの解消を困難にしていました。AIはそうした医療現場の忙しさを業務効率化によって解消し、患者さんの悩みと向き合う時間を捻出します。最初にインフルエンザを選んだのはそういったAIの恩恵を大いに享受できる疾患だと考えたためです。
 通常、医療機器開発を始めるに当たっては、国内に患者さんが数人しかいないような希少疾患であるならば採算が合わない、すでに他社が取り組んでいるプロジェクトならば後続しても意味がない、などいろいろな除外理由が考えられます。しかし、インフルエンザを対象にしたのはそうした消去法で出た結論ではなく、今言ったような積極的な理由がありました。

−−−ここ数年、医療に従事しながら医療機器開発に取り組む医師が増えてきました。どの方も医療現場での問題点や疑問を解決するために起業されていますが、沖山様はどのような理由で会社を設立されましたか。

【沖山】私は2010年に東京大学医学部を卒業した後、日本赤十字社医療センターで初期研修を修了しました。その後、ドクターヘリ添乗医や災害派遣医療チームDMATとして救急医療に従事しています。専門は救命救急です。
 初期研修は日赤医療センターでしたが、ここは先端医療が指向される都心の大病院です。ここで勤務していく中で、医療は東京だけにあるわけではないと徐々に思い始めました。確かに先端医療は必要ですが、救急医療の専門医としての経験も医師として必要だと感じたからです。その後、日赤医療センターとは対極にある僻地医療に携わる機会をいただきました。

医療機器業界はSDGsに取り組まなくてよいのですか?

水谷 光 氏
千船病院 麻酔科・手術中材センター/麻酔科標榜医/麻酔科指導医/
第1種滅菌技師/MDIC(医療機器情報コミュニケータ)/
認定ホスピタルエンジニア


2023年の日本医療機器学会への期待

 私は以前から、医療界におけるSDGsの取り組みについて個人的に興味を持ってきました。千船病院に勤務して1年半ほど経ちましたが、その前に10年間勤務した大阪労災病院でも、手術部や滅菌供給部門がSDGsについて無配慮どころか無関心だと感じてきました。とは言え、医療機関やその部門でできるSDGsには限界があります。しかし、様々な学会で検討することは1つのきっかけになると思います。そうした意味では2023年の第98回日本医療機器学会大会(6月29日~7月1日、パシフィコ横浜)は、SDGsについて医療界が少しでも意識するきっかけになればと期待しています。この大会は東京大学医学部附属病院手術部教授の深柄和彦先生が大会長を務められます。プログラムを検討する際、深柄先生も医療界におけるSDGsについて考えておられ、シンポジウムを設けることになりました。仮題は「医療機器における『もったいない』~医療の世界もSDGsを考える~」です。

現在の医療機関が優先するのはSDGsより儲け

 SDGsのゴールの一つに「つくる責任つかう責任」がありますが、これを意識して実施している医療機関は圧倒的に少ないと思います。これまでよく行われてきたのは新築の際に省エネの建築物にすることで、これは今後、当たり前になるでしょう。しかし、医療機関がSDGsを目指しているかと言われると、そうではありません。地球を守るために省エネを考えているわけではない。節電で年間ウン万円もの経費節減という銭金勘定、時代の風潮に乗ってSDGsに取り組んでいる対外的な好印象、そうした経営上の戦略の一環ではないでしょうか。設計や建築の業界の皆さまは真剣にSDGsに取り組んでいると思いますが。
 医療機関が最重要課題としているのは財務状況の改善でしょう。医療機関は本来は営利を目的としない組織です。がっつり儲けたいとは考えていないでしょうが、老朽化した建物を建て替え、設備や医療機器を更新することによって最善の医療を患者さんに提供するのが使命です。このためには、利益を追求しなければなりません。
 一方、堂々と利益を追求する一般企業においてはすでに、SDGsを意識して事業展開しないと社会の目が厳しくなりました。これから先にさらにSDGsの意識が成熟すると、医療機関もSDGsを意識しないと社会から認められない可能性が出てくると考えています。

国内医療機器商社における輸入医療機器選定のポイント
〜真に価値のある医療機器の供給を目指して〜

浜田 大輔 氏
株式会社アムコ 開発部部長


−−−日本における海外医療機器を輸入する商社の位置づけをどのようにお考えですか。

【浜田】医療機器の場合、ニーズは多様ですが、需要または市場規模がニッチです。全てのニーズを国内製品で賄うには無理があるでしょう。従って輸入医療機器は今後も日本の医療にとって重要な役割を果たし続けると確信しています。その中で我々のような輸入商社が活躍する場面もあれば、海外資本の大手医療機器メーカーが日本で直接ビジネスを展開する場面も出てくるだろうと考えています。

−−−1951年創業のアムコさんの社名が「アメリカン・コマーシャル」という名称からきていることはよく知られています。当初は米国の製品を輸入されていました。浜田さんが入社された頃の製品ラインナップはどのようなものでしたか。

【浜田】15年前に入社した当時、製品の割合は欧州と米国で半々位でした。現在はドイツ製品が主力ですので、ドイツが多い。しかし、これまで通り米国の製品も取り扱っています。最近、米国について注意を引くのはイノベーションの勢いですね。

−−−どういうことでしょうか。

【浜田】まず、ベンチャー企業の数です。全てのベンチャー企業を把握しているわけではありませんが、かなりの数だと思います。世界でも群を抜いている。いろいろなベンチャー企業が開発した商品を日本に輸出したいと盛んに持ちかけてきます。人伝てや大使館経由、展示会場などベンチャー企業を目にする機会が非常に多いです。

−−−欧州のイノベーションはいかがですか。

【浜田】会社を売ることを主要目的としているような企業は米国に比べて少ないように思います。元々、米国のベンチャー企業のマインドは買収されることを目的としていることも多いので、製品自体に情熱を持っていないケースが少なからずあります。
 一方、欧州のベンチャー企業は製品で確固たる医療機器産業の足場を作り、企業を成長させるという気持ちが強いように思います。

シリーズ 医療機器業界で活躍する女性達 第10回
目指すのは輸入医療機器と日本の医療の橋渡し役

二宮 麻利さん
ユフ精器株式会社
貿易部


−−−今回はインタビュアーの私、片岡佳奈子が勤めるユフ精器の女性社員を取材することとなりました。自分の会社を知るいい機会になったと思っています。我が社は輸入医療機器商社として知られていますが、貿易部ではどのような仕事をされているのでしょうか。

【二宮】貿易部では海外取引先からの製品の輸入を始め、海外取引先へ製品の使用方法や修理の問い合わせ、医療機器を販売する上での法的な手続きなどの窓口業務を行っています。私は主に取引先への発注と出荷依頼、輸入通関の手配、営業部と連携して在庫の確認とスケジュール管理、修理品や不適合品の返送の手配、さらに営業部修理課からの製品の使用方法、修理に関する問い合わせを担当しています。

−−−ユフ精器は輸入医療機器商社として営業活動を行っていますので、輸入の直接窓口である貿易部は非常に重要なセクションですね。

【二宮】取り扱っている製品が医療機器であるため、輸入通関時に薬事書類との照合などが必要です。特に通関時は気を遣いますね。弊社の取引先はほとんど欧米が中心で、現在の取引先は全部で16社になります。
 1日の仕事の流れとしては、午前中にメールを確認します。基本的に海外とのやり取りはメールです。その他、通関業者への指示、受注確認、出荷連絡なども行います。午後は社内の各部署から発注や製品の問い合わせを受け付けて、海外取引先へ連絡します。製品を予定通り医療機関にお届けできるように、営業部を支えることが貿易部の仕事と考えています。
 海外取引先の場合、レスポンスが遅かったり、事前の納期から大幅に遅れたりといろいろな難しさがあります。何度連絡しても埒が明かない場合は上司や先輩に電話していただいています。一番心掛けているのは、営業部と取引先のスケジュールをいつも確認し、納品に遅れないようにすることですね。

−−−何人体制で業務しているのですか。

【二宮】現在4名おり、男性が上司と先輩、女性は製品の梱包とシステム入力を担当する方と私です。上司と先輩は海外と価格の調整や交渉、薬機法関連の問い合わせなど、より高度な難しい業務を担当しています。また、海外の製品を日本向けあるいはユフ精器向けにカスタマイズしたいというような海外メーカーへのリクエストも上司と先輩が行っています。
 私が営業部からよく依頼されるのは、修理品を直す方法や海外メーカーに返送して修理する必要があるのかなどを取引先に問い合わせるといったものです。