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日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.48 No.420 2022.4-6 ダイジェスト

デジタルヘルスの推進と保険償還の今後を考える

園生 智弘 氏
TXP Medical株式会社 代表取締役 医師
救急科専門医・集中治療専門医


−−−デジタルヘルスを推進するには、デジタルヘルスの技術がどのような形で保険償還されるかが重要なポイントになります。しかし、様々な課題があり、承認されるのはなかなか難しいと聞いています。具体的にどのようなことが課題になっているのか教えてください。

【園生】デジタルヘルスはこれまでにない全くの新しい技術です。類似品や先行品がほとんどないため、いわゆる「ストラクチャー評価」を行うにしてもどのくらいの金額が妥当なのか基準がありません。これが一番の障害でしょう。ただし、特定の疾患で「アウトカム評価」が得られるのであればそれに応じた金銭的評価をすべきですから、適正価格が定まってくるのではないかと思います。しかし、現在、薬機法で承認されているAI医療機器などは2、3品しかないので、それを定めるのも難しいですね。
 何よりも、類似品、先行品がほとんどない、事例がないというのが最も大きな障害です。

−−−デジタルヘルスの価値、また保険償還についてのハードルをどのようにお考えでしょうか。

【園生】デジタルヘルスツールの中には、情報交換のツールとしての価値は認められていますが、診断支援や治療支援を目的として承認されていないものもあります。これまで医薬品も医療機器も保険償還の対象とするのは、あくまでも治療効果という視点でしか議論されてきませんでした。プログラム医療機器の場合には、直接的な治療効果という観点だけでなく、情報連携効率の向上も価値として認められる必要があります。
 そもそも日本の診療報酬制度そのものがデジタルヘルスにそぐわない部分があります。日本の診療報酬制度はあくまでも、医師をはじめとする医療従事者等が診断や治療に何らかの医療機器を用いることに対して診療報酬付与がされるというスキームとなっています。

医療機器産業のリ・デザインをどのように実現するか(前編)
〜海外展開・医療機器のイノベーション〜

中野 壮陛 氏
公益財団法人医療機器センター専務理事/
医療機器センター附属医療機器産業研究所所長
西海 康史 氏
第一医科株式会社
マーケティング管理部 品質保証課課長
浜田 大輔 氏
株式会社アムコ 開発部部長

−−−海外メーカーと競うには開発段階でグローバルニーズを取り入れるべきだと言われています。国内医療機器メーカーとしてこの点をどのように思われますか。

【西海】弊社は耳鼻咽喉科に特化したメーカーです。人数は70名弱、戦後まもなく創業し、日本経済の拡大とともに成長してきました。これまでは国内ニーズに応えることで精いっぱいだったと思います。しかし、7~8年程前から国内の人口減少や経済成長率の鈍化を鑑み、現社長を筆頭に、海外への進出を意識するようになりました。では実際に海外ニーズを把握しているかというと、そうではないのが現状です。弊社はこれまで国内市場に対応してきた先輩達から、今後は海外も対象にしていかないといけないと考えている世代へと移行していく過渡期にあると感じています。こうした状況がグローバルニーズによる開発がなかなか進まない理由かと思います。

−−−アムコさんは海外製品を輸入する立場としてどうお考えですか。

【浜田】グローバルニーズと一括りにはできないと思います。ニーズは国や地域毎に異なるのではないでしょうか。中小企業が9割以上を占める医療機器業界で、そのような細かい海外ニーズを個別に広く把握する体力のある企業は少ないため、まずはニッチな領域に狙いを定めて、そこから足場を作っていくような考え方でないと、難しいと思います。
【中野】日本vs海外は1対1ではありません。各国それぞれと競争するのは体力勝負になりますので、1社だけで乗り切るのには無理があります。やはり現地のパートナー企業を探すことが重要な鍵となります。とはいえ、適切な現地パートナー企業を探すのも大変だと思います。JETROの利活用という選択肢もありますが、専門性から限界もあるでしょう。将来的には日医工や医機連といった日本の業界団体が海外にオフィスを持ち、総合的な支援を行っていくことも必要なのかもしれません。例えば米国のAdvaMed(先進医療技術工業会)の支部は日本にもありますし、中国(上海)にもあります。このような活動も団体の使命の1つになるのかもしれません。

登録認証機関の審査基準の在り方と様々な要望への対応の実際

稲垣 直規 氏
SGSジャパン株式会社
認証・ビジネスソリューションサービス
医療機器認証部 ビジネスマネージャー


−−−国内の登録認証機関において統一された審査基準というものはあるのでしょうか。

【稲垣】薬機法における医療機器の認証では、厚生労働省(以下厚労省)が告示112号で定める認証基準に適合し、本告示のただし書きに抵触していない品目が「認証品」の条件となります。つまり、認証基準に適合している機器であり、既存の医療機器との実質的な同等性を立証できる機器が認証品です。
 この考え方に基づき、各登録認証機関は認証審査業務を実施していますが、ご質問の意図が「登録認証機関が個別に設定した統一された審査基準はあるか」ということであれば、「ない」とお答えしたいと思います。審査基準はあくまでも告示112号で示された基準となります。従って登録認証機関の間で統一した審査基準というものはありません。どの登録認証機関もこの考え方に従って審査していますので、あえて登録認証機関同士が新たに統一した基準を定める必要はないわけです。
 しかし、各登録認証機関の審査員の認証基準への適合性の可否に対する考え方はできるだけ標準化する必要があるため、不定期にトレーニングが開催されています。これを主催するのがPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の「登録認証機関監督課」です。例えば、全ての登録認証機関の審査員が参加し、指定高度管理医療機器の認証審査時の留意点や生物学的安全性評価に関する考え方等を解説していただいた事例があります。こういう機会を設けて各登録認証機関、各審査員の考え方をできるだけ近いものにしていきます。
 また、各登録認証機関において審査していく中で、どうしても判断に迷う案件が出てきます。その場合、登録認証機関は「医薬品医療機器等法登録認証機関協議会(ARCB)」を通じてPMDAに照会することができます。照会に対する回答は、原則として30日以内に提示されます。またこの回答は、当該機関だけでなく全ての登録認証機関に展開されますので、各登録認証機関は知見を深め、審査の現場に反映させることができます。照会された回答はPMDAのwebサイトにも公開されています。

「医療機器のみらいを担う人財育成プロジェクト」
研修の実際と開催の意義について

加藤 二子 氏
経済産業省 商務・サービスグループ
医療・福祉機器産業室 室長補佐


「みらプロ」開催の背景と参加の意義

 医療機器業界は業務の細分化が進んだが故に、医療機器産業全体における課題や医療機器の規制に関する課題を認識する機会が減少しました。かつ、将来の業界活動を担う若手人財もなかなか増えない状況にあります。しかし、顕在化していない課題の抽出、これまでの経験の延長線上では解決できない問題には、若い世代の新鮮な着眼点や発想が不可欠です。産業界には行政とともに医療機器関連の政策に関する議論ができる若手人財の育成が必要、という背景から「みらプロ」の募集が経済産業省にももたされました。私は2020年6月に現職の医療・福祉機器産業室に着任したばかりの頃でしたが、研修に参加することになりました。
 私にとって医療機器分野は縁が深く、現職の前には医療機器の国際標準を担当していました。また、それより以前の部署は産業技術環境局研究開発課で、創薬や医療機器、再生医療の研究開発予算を担当しています。また、福祉用具の標準化も担当するなど、医療や医療機器に近い領域を歩んできました。経済産業省において、様々な政策部局がある中で中心業務を探るのは難しいことですが、私はかなり早い段階から「医療をやっていこう」と決め、東京女子医科大学・早稲田大学共同医科学専攻で生命医科学を学び、補助人工心臓に関係する論文を執筆後、2013年に博士号を取得しました。
 私は経済産業省の中でもヘルスケア分野の領域に長くいたので、「みらプロ」の参加に最適だったのだと思います。今回は私1名でしたが、実際に参加してみると、本省からもっと参加すべきだったと思うほど内容の濃いプロジェクトでした。