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日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.52 No.434 2025.10-2026.3 ダイジェスト

日本におけるSaMD開発の現状と今後の展望

伊藤 雅昭 氏 
国立がん研究センター東病院 副院長/
医療機器開発推進部門長/大腸外科長



−−日医工には、「伝統的なハードウェアメーカー」、「中堅・中小企業」、「SaMDに挑戦し始めた企業」など、いろいろな医療機器メーカーが会員企業として所属しています。SaMDに取り組む企業に共通して求められるのは、どのようなことでしょうか。

【伊藤】どの領域で、どんな疾患に対して、どのような治療に使用され、さらに保険償還が認められるか。SaMDの開発にはそういったゴール設定をまず初めに明確にしておくことが必要でしょう。
 まず、何を目的としたSaMDなのか明確にする。保険償還を目的としたものなのか、省力化や効率化を実現するものなのか、保険償還が認められなくても使ってもらえるのか。収益が上げられなければ、開発しても意味がありません。さらに、治療に使用されるSaMDは臨床試験を行うので、医師と緊密な関係を持たなければならない。保険収載する場合には、学会や関係業界へのロビー活動も必要でしょう。キーマンとなる医師を定め、ゴールに向かって確実に話を進めていくことが大切です。
 医療機器は医薬品とは異なり、製品ごとに使用目的や操作方法が大きく異なります。そのため、開発のゴールを一律に設定することが難しいという特徴があります。製品によってリスクの内容や評価すべきエンドポイントは変わり、関与する医師の専門分野や役割も異なります。こうした多様性は医療機器の特徴でもありますが、一方で開発や普及の難しさにもつながっています。だからこそ、特定の医師だけに依存するのではなく、臨床医、企業、研究機関などが連携するエコシステムを構築し、技術開発から臨床応用までを支える仕組みを整えることが必要でしょう。


−−ゴールまでの道筋を医師ときちんと話せる企業担当者が必要ということですね。

【伊藤】それこそまさにAMEDの「医工連携グローバル展開事業」の領域です。私はそこのプログラムスーパーバイザーも担っていますが、その視点から見ると企業とアカデミア・医師の関係性は今なお希薄に見えます。企業の経営者やマネジメント担当者がアカデミアや医師と組む場合には、毎月のように頻繁に会って製品の開発状況について話し合うことが必要です。それがあってこそ、成功に近づける。また、お互いの関係が対等であることも重要です。


病院と介護施設の連携における新たな視点

喜多 剛志 氏 
株式会社インターネットイニシアティブ 公共営業本部公共システム事業部 データ連携事業推進部長
小椋 大嗣 氏 
株式会社インターネットイニシアティブ 公共営業本部公共システム事業部 データ連携事業推進部 上級コンサルタント

−−御社が自治体と組んで進めている多職種連携は、どのような“連携の形”を目指しているのでしょうか。

【喜多】医療連携で最も重要視されているのは電子カルテです。しかし、これで連携できるのは病院同士が主です。今後必要とされるのは「病院と介護施設」の連携ですが、地域にそうした設計はまだ少なく、あったとしても法人間での資本的なつながりに限られがちです。
 本来、地域包括ケアとは地域住民全体が連携して取り組むという仕組みです。今まさにそれが必要な状況になってきている。地域包括ケアを必要としているのは、寝たきりの高齢者だけではありません。がん患者さん、認知症の方、重度の慢性疾患の患者さんとさまざまです。一人ひとり症状も異なり、柔軟に対応しなければなりません。しかし、それを実現するためには、医師、看護師、薬剤師、歯科医師、リハビリ専門職、介護職員、ケアマネジャーといった関係者同士の細かな情報共有が必要となります。
 現在、こうしたことは電話や連絡ノート、対面の会議などで行われていますが、そうしたアナログの作業は手間がかかり過ぎます。ここにデジタルを活用するというのが、我々の考え方です。ただし、電子カルテのような重厚なシステムではなく、「連絡したい時にすぐにつながる」という、地域の枠組みのような緩やかなネットワークを提案しています。


−−関係者同士をLINEでつなぐという考え方ですね。

【喜多】はい。メリットは、お互いに顔を知った信頼できる相手と、チャット型のデジタルツールでスピーディかつ非同期、隙間時間で負担なくつながれる点です。こうした関係性を地域全体で作っていく。コストの掛かる1対1の施設間連携は絶対に限界が来ます。施設間だけで連携するのか、地域の専門職全体という面で連携するのかで、土台が全く変わってきます。


医療機関へ医療機器購入に関するコンプライアンスを働きかける

齋藤 隆明 氏 
医療機器業公正取引協議会 専務理事



−−公取協の「公正競争規約」は1990年代初頭に起きた贈収賄事件をきっかけに作られました。最近は、当時と状況が変わってきているように思います。医療機関側からメーカー側に賄賂を求めるケースが多くなりました。

【齋藤】当協議会で運用している規約は、景品表示法に基づき医療機器業界の自主ルールとして制定されたものです。そのため、当協議会では会員である医療機器製造販売業者に対して、規約の遵守に向けた啓発活動を行ってきました。しかしながら、近年発生している規約違反の事案によると、医療機器製造販売業者に対して規制を行うだけでは問題発生を防ぐことが困難なケースもみられます。


−−以前はメーカーの自主規制だったが、医療機関側へも規約の理解を求める時期に来たということでしょうか。

【齋藤】最近発生した厳重警告事案では、医療機器製造販売業者側だけではなく医療機関側にも原因があったことは明らかだと考えています。このため、当協議会としましては、医療機関側にも医療機器の取引に関し、規約への理解を働きかけていきたいと考えています。


−−具体的にはどのような方法をお考えですか。

【齋藤】昨年、医療機関側に対して規約を啓発するための動画を新たに5本製作しました。これは当協議会のホームページでも見ることができます。
 そして、医療機器製造販売業者による規約違反を防ぐためには、医療機関に所属する医療関係者に規約を理解していただくことが必要ですので、引き続き、さまざまな啓発活動を行うことにしています。
 まず、医療機関、学会、医療団体の事務局に働きかけ、これらが開催する学会、セミナー、説明会に講師等を派遣します。当協議会の講師により規約に関する説明をしたり、学会の会場に展示ブースを設けるなどして、医療関係者に規約に関する理解を深めていただきたいと考えています。
 また、医療機関への規約周知用資材を作成し、啓発のためのコンテンツを充実させます。これを、当協議会のホームページ「医療機関の皆様へ」のコーナーに、医療関係者の規約への理解を深めていただくためのツールとして、Q&Aとともに順次掲載していく予定です。さらに、最近、医療機関からの問い合わせが増えてきました。こうした、医療機関から寄せられる医療機器の取引に関する相談に丁寧に対応し、規約違反を未然に防止していきたいと考えています。


【シリーズ】医療機器と私
臨床工学技士にとってのECMOとは

倉島 直樹 氏 
東京科学大学病院 MEセンター 技師長



「多職種カンファレンス」による“当事者意識”の向上

 今の医療現場は、医療機器の専門家である臨床工学技士の活躍の場が増えつつあります。我々も生命補助装置を使用するための勉強をしていますし、医師とは異なる視点に立つことによって新しい提案ができるのではないかと思っています。
 臨床工学技士は医師の指示がなければ仕事を行えません。しかし時折、医師に指示を変えてもらうことが必要と思える場面に出会うことがあります。それには重い責任が伴うため、当然、医師が納得してくれるような説得材料がなければならない。その場合は、学会の講演や論文報告などを根拠にするようにしています。誰が考えても正解だとわかるような材料を揃えることがポイントです。
 東京科学大学は、職種の垣根が低いとよく言われます。その理由は多職種カンファレンスを毎日行っているからでしょう。この場には、集中治療医、診療科の主治医、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、臨床工学技士が集まります。これはかなり前から実施しており、どのような意見を言ってもいいことになっています。例えば、検査結果でリンの数値が低い場合、薬剤師と栄養士は「補充してください」と言います。しかし、リンは透析によっても濾過されてしまうので、我々臨床工学技士も同様に言うことになる。観点の違いから意見を出し合う、そのような環境にあります。
 他施設から移ってきた医療スタッフが、当院の多職種カンファレンスに参加すると驚きますね。今では他の職種の人達同士で、事前に相談するようになりました。こうした状況は多職種カンファレンスを毎日行っていることの強みでしょう。意見を出し合う環境が、変わってきたと感じます。ただ、若い人の場合、たとえ医師であっても周囲からは生意気だと思われてしまうことがあります。しかし、私はあえて若い人たちに言わせるようにしています。そうしたことを若い時から経験していると、どう伝えれば理解されるのか徐々にわかってくるからです。ただ、言葉だけでは理解しにくい。伝えやすい見せ方や言葉があるのです。