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日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.49 No.424 2023.4-6 ダイジェスト

未曾有の事態における医療機器の海外展開の現状と課題

伊崎 一志 氏 山田医療照明株式会社 間嶋 恒吾 氏 サクラ精機株式会社
古賀  誠 氏 フクダ電子株式会社 三井 邦生 氏 アトムメディカル株式会社
野村 欣男 氏 株式会社島津理化
山下  大 氏 パラマウントベッド株式会社
蛭田 嘉英 氏 シスメックス株式会社
山田 博行 氏 日本光電工業株式会社
オブザーバー
矢野  守 氏
日本医療機器工業会 国際政策委員会委員長/特定非営利活動法人海外医療機器技術協力会

−−−現在、世界は大変な状況にありますが、各国はどのような様子でしょう。国によって違いがあると思いますが、競合品との比較や相手国のリスク、規制への対応など紹介していただけますか。

【山下】弊社はアジア地域、特にインドネシア、中国、インドを中心に活動しています。
 2017年には 、市場規模が大きいインドに注目し、工場を設立しました。
 弊社が主に取り扱っているのは医療用ベッドですが、競合は欧米のグローバルメーカー、そして各国のローカルメーカー等国によって様々です。価格的にはグローバルメーカーとローカルメーカーでは、かなり値段に幅があります。相手国のリスクとしてまず挙げられるのは、事前通告なしで急に法律や規制が変わることで、その対応は結構大変です。
 克服すべき課題は国により異なりますが、各拠点でこれからチャレンジすべき市場があります。各市場に見合った価格帯、仕様を把握して製品を供給していくことになります。弊社には海外に自社工場があるので、それらを活用して市場に見合う製品を提供しています。
【伊崎】手術用照明灯海外市場はなかなか業績が伸びず、現在はODA(政府開発援助)案件に頼っている状況にあります。東南アジア方面を中心に現地案件は代理店に任せており、相手国のリスクは少ないです。リスクが多い国には進出しないようにしています。弊社は欧米メーカーと競合することが多いのですが、最近は価格重視の国において中国メーカーと競合になっています。規制については代理店および社内の担当部局と対応しています。
【三井】周産期の医療機器を取り扱っている弊社は、現在約90カ国と取引しています。昨年度、最も良かったのは欧州、特に東欧諸国およびロシア圏の業績が伸びました。次いでアジアです。現在、韓国、台湾、中国は出生率が非常に落ちていますが、一方、スリランカ、パキスタン、バングラデシュなどでは出生率が上昇しています。

「医師の働き方改革」2024年4月より適用開始
日本医師会が「評価センター」運営で支援活動

城守 国斗 氏
公益社団法人 日本医師会 常任理事

日本医師会が評価センターを務めることの意義

 「医師の働き方改革」のポイントの1つは、医療機関の労働時間短縮の取組を客観的に評価するための組織を設立することにあります。その設立経緯についてご説明したいと思います。
 働き方改革の目的は、先ほどお話ししたとおり、医師の健康の確保にあります。同時に、医師の過重な労働によって医療が維持されている現状を変えなければならない。しかし、地域医療提供体制の維持は考慮する必要があります。
 改革により、医師の労働時間の縮減に向かいますが、仕事量は縮減できません。むしろ、時間を減らすことで仕事量は増えてしまう可能性があります。また、労働時間を減らしたために、地域医療が継続できなくなることも考えられます。特に、時間外労働が多い救急医療や産科、長時間の手術時間を要する診療科などは影響が大きいでしょう。
 加えて、医師の仕事は医療行為のみならず、日々進歩する医療技術への研鑽も重要な業務となります。一般の職業において研鑽を労働と解釈するのは非常に難しいですが、医師という仕事において研鑽が必要であることは明白です。研鑽を怠ることで医療の質が落ちることや向上が停止することがあってはなりません。
 すなわち医師の働き方を推進するに当たっては、「医師の健康確保」、「地域医療の継続」、「医療の質の維持・向上」という視点をしっかり持たなければならないということです。時短の取組を評価するためには、そうしたことに経験や知見を持つことが必要条件となります。その条件を満たすのは、医療関係者しかいません。さらに、評価センターは大掛かりな業務になることは確実ですから、確固たる体制を持った組織でないと実行が難しいでしょう。日本医師会の松本吉郎会長(当時は常任理事)が理事会において「日本医師会が評価センター業務を担当すべき」と提案し、全会一致で承認されました。

医療機器の若手専門家を育てる官民合同研修会、みらプロへの期待

 2022年5月にスタートした医療機器業界の若手人財の育成を目的とする「第2期 医療機器のみらいを担う人財育成プロジェクト(以下、みらプロ)」が、2023年3月に終了した。
 日医工の会員企業から参加したのは3名。参加した方々にプロジェクトについての印象、今後の抱負などについて語っていただいた。


業界の精鋭が集まった充実した研修

大桐 伸介 様
株式会社大同工業所 代表取締役

 弊社は冷温技術を基本として医療用機器、防爆機器、水処理試験機等の製品・サービスを提供している会社です。医療においては血液保管に関する「血液用保冷庫」、「プラズマフリーザー新鮮凍結血漿用急速凍結庫」などを製造販売しています。
 このプロジェクトについては何も知らず、参加の打診をいただいた時に初めてその内容を知りました。行政と企業が一緒になって医療機器業界の人財育成を行うという非常にユニークな企画でしたので、参加したいと思い申し込みました。これからの医療機器産業をどのようにしていくべきか、そういった大きなテーマは中小企業の日常業務とはかけ離れた所にあります。しかし、私は代表取締役を務め、製造販売の責任者であり、海外市場の開拓担当であり、またエンジニアでもあるので、様々な方面から関係省庁や規制当局の方々の意見を聞きたいと思いました。

シリーズ 日本の医療機器業界で働く外国人社員に聞く
幼少からのミッション「人を助けたい」が、
医療の世界に入るきっかけとなりました

Anne Smith(アン・スミス) さん
日本ストライカー株式会社 
ガバメントアフェアーズ本部長

−−−ガバメントアフェアーズの本部長ということですが、具体的にはどのような仕事をされているのでしょうか。

【スミス】ガバメントアフェアーズという職種は、医療機器業界でも徐々にですが知られるようになってきています。行政や業界団体など関係機関との交渉窓口として、様々な業務を行うことが仕事です。具体的には関係する医療政策の情報収集や分析、アクションプランの作成、議員や行政の方達へ医療情報の提供などを行います。目的は必要とされている医療機器を社会に送り出すこと、医療従事者を始めとして行政や患者団体、業界団体なども巻き込みながらアクションプランを実行していきます。極端に言えば、弊社日本ストライカーのためだけではなく、日本の医療機器業界のための仕事と言えるかもしれません。
 例えば、弊社ではサージカルスモークを吸引除去する手術室の排煙装置の導入を推進しています。サージカルスモークとは、手術で電気メスを使う際に発生するガスや粒子のことです。手術に携わる医療従事者の健康に悪影響を及ぼすことが分かっており、手術室に排煙装置を設置することが海外各国で義務化する動きが進んでいます。米国では11の州で義務付けられています。しかし、日本ではまだその重要性が認知されておらず、義務化に至っていません。そうした義務化を後押ししたり、制度化を促したりするための情報の提供、啓発活動を行い、医療の向上に貢献することがガバメントアフェアーズの仕事です。